「「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識 - 久保 友香」を読んだ感想
女の子たちがプリクラやアプリなどで、目を大きく加工した写真などを見たことがある人は多いかと思います。
本書では、この「盛り」を「一九九〇年代半ば以降のデジタルテクノロジーの発展により出現した「バーチャル空間」において、日本の女の子の間に広がった、ビジュアルコミュニケーションの行動。」と定義し、この「盛り」が生まれた背景を1990年代の渋谷から生まれたコミュニティから当事者へのインタビューを通して分析しています。
外国から日本の女の子たちに注目が集まる
ある日著者のもとに、フランス本社の化粧会社マーケティング部長の方が訪れる。その方は著者の「なぜ日本の女の子たちはそっくりな顔をしているように見えるか?」という記事を読み興味を持ったという。
この記事では、日本の女の子たちのコミュニティで作る個性について書かれている。これは、日本の女の子たちが言う個性とは、絶対的な個性ではなく、コミュニティとの関係の中で相対的に作られた個性だ。一見そっくりに見える女の子たちだが、彼女たちがメイクやファッションを頑張る理由として、「自分らしくあるため」と答える。コミュニティで作られた型を守った上で、つけまつげのカスタマイズなどの彼女だけの「個性」を表しているのだ。
外国から興味を持たれた理由は、SNSの出現により「個人主義」から「コミュニティ主義」に変化し、化粧も変化するのではないかと考えたという。
プリクラの文化は現代のSNSで行われていることと同じ?
第1章は、渋谷に誕生した「盛り」について書かれており、SHIBUYA109やガングロについての考察がされている。
その中で、プリクラ文化についても書かれている。当時、プリ帳と呼ばれるプリクラを貼るノートが流行っていた。プリ帳は、プリクラを貼るだけでなく、友達と交換したり、メッセージを書いたりすることもあった。友達の友達などにシェアできたりもしたので、リアル空間でつながりがない人も見ることができたことを意味する。
これは、現代のSNSで行われていることと同じ現象と著者はいう。また、化粧とストロボの効果を用いて、プリクラ写真の上で実際よりも派手になる行動を、すでに「盛り」と呼んでいたということを当事者へのインタビューから知る。
ここで面白いのが、「盛り」という言葉がいつ使われるようになったかを調べるのにプリ帳から調べたことだ。手紙などが研究資料になることが多いが、プリ帳が、特定の時代を生きた女子中高生の文化を知る貴重な資料であり重要な研究資料になっていることが面白い。
語られないインターネット史?
第2章は、インターネットの中で拡大する「盛り」についての分析だ。ここでは、携帯ブログにおけるビジュアルコミュニケーションについて書かれている。
自分は知らなかったのだが、女の子向けの携帯ブログサービスとして「デコログ」というサービスがあったらしい。このサービスの面白いところは、
- 広告が入って邪魔したら意味がないから、お金がなくなるまでは、広告を全く載せずにやった
- 女の子が安心して使えることを目指し、クローラーをブロックしていた
収益の手段としての広告を入れないのは、ユーザー体験を優先していてすごいなと思った。また、クローラーをブロックすることで、グーグルなどの検索エンジンに引っからずに、出会い目的の成人男性を排除できた。
女の子たちだけで閉じた空間ができ、多くの大人がこの現象を知らない。このことは、インターネット史を語る上で影響があるだろう。ここでも多様性の大事さ、ひとつの属性だけで語ることの危険性を感じた。
○ 関連書籍
Coders(コーダーズ) 凄腕ソフトウェア開発者が新しい世界をビルドする
「盛り」の研究
ここで著者について紹介すると、著者は専門はメディア環境学で工学系の研究員だ。本書はこれまで見てきたように文化論について書かれており、てっきり人文系の研究者が書いたのかと思っていたが、工学系の研究者が書いていることに驚いた。
しかし、工学系の研究者だからこその本書の面白さとしては下記が挙げられる。
- 技術分野の革新で、日本の女の子の「盛り」の文化が変化して様子を描く
- ex 技術が変われば、女の子たちが目指す顔も変わることなど
- ものづくりの性質での分析
- 守破離の美意識
- 「盛り」の数量的分析をするための計測装置を開発したこと
- 実際の顔とのズレを計測
- アイメイクのプロセスを記録、計測
- 自撮りのプロセスを記録、計測
著者が「盛り」を研究テーマに選んだ理由は、日本人の美意識を解明したいからだという。最初は伝統文化を研究していたが、しだいに現代文化へと移し、現代の女の子たちの「盛り」に着目した。
著者の久保さんの↓の記事がどういう経緯で「盛り」について研究されるようになったかが書かれており興味深い。
https://note.com/opluse_note/n/n99da7e704bf6
黄金比などは数式で表せるが、この「盛り」を数式で表すことを目指していることがあとがきに書かれている。今までは、「盛り」を絶対的なものとして捉えていて数式で表すことができなかったが、こうしてインタビューや文章での記述を得て「盛り」とは相対的なものであることが分かり、このことを取り入れて数式にできないかと著者は考えている。
自分も、美しいものを数式で表すことに興味があるので、本書を面白く読めたのかなと思う。今後の著者の研究にも注目したいと思った。
まとめ
「盛り」の誕生という本を紹介しました。90年代の渋谷のイケてる高校生コミュニティにまで遡り、コギャル、ヤマンバ、プリクラ、ガラケー、デコログ、デカ目、スマホ、インスタなど深く掘り下げて調査・分析してあり、文化論としても面白いし、工学系の研究者が書いているからこその分析も面白い本でした。
本書では主に「目」についての「盛り」について考察されていましたが、昨今の宇宙人みたいな顔の加工や、顔の変なつぶつぶの加工など、どれも一緒に見えるアプリの加工について、女の子同士のコミュニティの中でなぜあんな加工をしているのかが気になりました。
これも彼女たちにとっては「個性」だと思っているのでしょうか?



