「観音像とは何か 平和モニュメントの近・現代 - 君島彩子」を読んだ感想

「観音像とは何か 平和モニュメントの近・現代 - 君島彩子」を読んだ感想

目次

以前、宇都宮美術館の企画展のライシテからみるフランス美術のシンポジウムに行った際に、講演者の君島彩子先生の著書が気になっていたので、読んでみました。

また自分は出身が仙台なのですが、小学校の時に「仙台大観音」が校舎から見える位置にあったこともあり、なぜ巨大な観音像が誕生したのかや、観音像そのものについての興味もありました。

ふだん、仏教や歴史にあまり触れる機会がないため、個人的に久しぶりに関連書籍なども含めて知的好奇心が刺激される本でしたので紹介してみたいと思います。

どんな内容か?#

企画展の講演では、ライシテと絡めたお話だったので仏教などの観音像の宗教美術の公共性と宗教分離についての話をメインにお話されていました。本書では副題にあるように、信仰・礼拝の対象であった観音像が、戦後に仏像の域を超え、平和を象徴するモニュメントへと変容していく観音像の歴史を通史的に描いており、その独自性を評しています。

また、時代を経て巨大化する観音像が建立されますが、この観光施設としての意味が強い大観音像を存続させるために「平和」のイメージがどのような役割を果たしているのかについても分析しています。

気になったトピック#

知らない知識や関心事が多く、全ページ読書メモを取るくらいに濃い内容でしたが、特に気になった内容をいくつか紹介します。

プロパガンダとしての観音像#

西洋からの美術概念が導入された近代以降、仏像を視覚的に鑑賞することが重視されるようになり、仏像は視覚芸術である彫刻として認識されるようになりました。大正期には、寓意的な意味を込めた名称の仏像風彫刻が多かったのですが、戦時期になると従来の仏像の名称が復活し、仏像の宗教的意味が強調されるようになりました。

アジアにおける日本支配を正当化する大東亜共栄圏のシンボルにもなり、「興亜観音」が誕生されます。

また、怨親平等の思想もあります。これは敵も味方も区別せずに平等に供養するという思想ですが、実際に供養の対象になったのはアジアの人々のみでありました。この背景も大東亜共栄圏の思想が予想されます。要は日中友好のプロパガンダですね。

プロパガンダとして使われるものとして、絵画や映画などが挙げられますが、観音にもプロパガンダの一翼になるなんてことがあるのかと驚きました。たしかに信仰の対象として結びつきやすですね。

巨大観音像の存続に不可欠なもの#

巨大な仏像を扱った写真集やルポルタージュがあるように、巨大な観音像には信仰対象や美術作品としてだけでなく、観光資源や娯楽の対象として仏像を扱っていることもあります。そこには戦後の戦争死者慰霊のモニュメントからバブル期の観光施設への変容があります。

その変容の中にも、戦争死者慰霊や原爆などを観光施設として大観音像を建立させることに対する反対意見もあり完成することがなかった大観音像もあります。ほかにも自然環境破壊につながる危惧からの反対運動もあったようです。

また、大観音像を維持するにも莫大な資金が必要になります。そのため、税制面で優遇される宗教法人の形態をとることが多いみたいです。

平和のイメージとして定着した白色で女性的な大観音像は、宗教施設として信仰の場として機能しているので、戦争の記憶が薄れた時代においても、観光施設としての大観音像の存続に不可欠なものになっていることがわかります。

誰もが祈ることができる像とは#

怨親平等の思想といっても、戦時中ではアジアの人々のみが慰霊の対象になっていましたが、敗戦とともに状況は大きく変化し、戦後は平和を願う信仰対象として定着し、連合国側の戦争死者慰霊も行われるようになりました。

連合軍には仏教徒が少ない国も多いため、仏教の尊格である観音像では、仏教徒以外の敵も慰霊するには不十分であると考えられます。このため、観音像にキリスト教などの異なる象徴性を与えることで、すべての戦争死者の慰霊が願われました。

さらに、観音像を仏教にとらわれない「超宗教的な存在」であると捉えることで怨親平等の慰霊を願った人々もいたようです。

観音を聖母マリアのイメージと重ね合わせるマリア観音や、十字架の光背の観音像がありますが、それでも仏教やキリスト教徒以外の人々の慰霊には不十分です。そのことからも、誰もが祈ることができる像を目指したとき、従来の宗教イメージを用いることの難しさがあるのだなと感じました。

まとめ#

個人的に最近、公共の空間に設置してあるパブリックアートに興味があるのですが、同じく野外に設置してある観音像について、その歴史や何を象徴しているのかを本書を通して知ることができてよかったです。

テーマに沿った観音像が紹介されているので、他の視点での観音像についても知りたいと思いました。

また自分が行ける範囲の観音像だと、大谷の平和観音と高崎白衣大観音、相馬市の百尺観音があるので、実際に訪れてみたいと思いました。

気になる関連書籍など#

ここでは、本書を読んで気になる関連書籍や事項を備忘録として残しておきます。

  • 平和の象徴とされる折り鶴

    • 佐々木禎子
  • 観音像以外の平和を象徴するモニュメント

  • 東京美術学校の開校

    • 岡倉天心について詳しく知りたい
  • 興亜観音の発願者、松井石根について

  • 大阪万博に建立された観音像
  • 椎尾弁匡による共生運動
  • 山﨑良順について
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どんな本か

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公開日:2026-03-30
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#書籍紹介
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公開日:2026-01-21
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#書籍紹介
#フォント
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Zettelkasten(ツェッテルカステン)について学びたかったので、TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになるを読んだ感想です。

<AmazonLink imageId="71taKZfhhWL.SY522" linkId="4o8lfyX" title="TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる" author="ズンク・アーレンス" />

読んだ経緯

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Amazon商品情報から引用

<AmazonLink imageId="81nmtchuZoL.SY522" linkId="450JeHq" title="クリエイティブプログラマー" author="Wouter Groeneveld" />

この本をきっかけに、ニクラス・ルーマンや Zettelkasten の手法について知りたいと思い、日本語で Zettelkasten について唯一紹介されている本書を読みました。

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公開日:2025-08-02
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#書籍紹介
#メモ術
小説版 機動戦士ガンダムを再読した
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2025 年は、機動戦士 Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)が放映された年でした。自分は途中からのリアルタイム視聴ができ、いろいろ不満がありながらも面白く一気見しました。

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小説版のガンダムは、アニメシリーズとは全然別物になっています。具体的には、ララァが第 1 巻の後半で登場するが、あっというまに退場したり、その後に小説オリジナルのニュータイプとして「クスコ・アル」なるキャラが登場したりします。

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公開日:2025-07-27
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#書籍紹介
#小説
#ガンダム
フォントのふしぎを読んだので紹介
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フォントのふしぎを読んだので紹介

フォントやタイポグラフィについて勉強したいと思い、フォント関連の本を読んでいきたいと思います。 手始めに読んだ「フォントのふしぎ」が良かったので紹介します。

<AmazonLink imageId="51Dtxr9LBSL" linkId="4nIcZFK" title="フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?" author="小林章" />

書籍と著者について

この書籍は 2011 年に出版された本です。著者は「小林章」さんで、ドイツ在住の欧文フォントの書体デザイナーです。他にも欧文書体などの本も書かれております。

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カラーで写真も豊富に載っているので、見ていてとても楽しいです。

誰でも読みやすい、親しみやすい語り口

この本の魅力のひとつが、タイポグラフィの専門書でありながら、とても親しみやすい口調で書かれていることです。

たとえば、こんな一文があります。

「いっぽうで、1 とアイがまったく同じようなデザインのフォントもある(183 ページ)。別にどっちがイイとか悪いとかじゃないんで。」

こんなふうに、小難しい話をわかりやすく、時にはちょっと笑えるような軽やかさで解説してくれるので、まるで話のうまい先生の授業を聞いているような気分になります。

また、ヨーロッパで撮影された実際の看板や街中の文字を写したスナップ写真も豊富に掲載されていて、「フォントが使われている現場」の臨場感をリアルに感じられるのも大きな魅力です。そこにはきちんとフォント名とメーカー名も添えられているので、実用的な知識としても役立ちます。

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公開日:2025-05-09
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#フォント
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