在りし日の印刷現場レポ「印刷に恋して - 松田 哲夫」を読んだ感想

在りし日の印刷現場レポ「印刷に恋して - 松田 哲夫」を読んだ感想

目次

直近に「タイポグラフィ・ブギー・バック」という本を読んだが、その本では写植からデジタルフォントの時代の変遷を著者の体験から描いたエッセイだった。そこでは本や漫画を読むときに活字のフォントによっての印象の違いが大きいことが述べられていた。

・読書感想
タイポグラフィ・ブギー・バック: ぼくらの書体クロニクル

また、「デザイン解体新書」という本では、文字組みやレイアウトに関する指定などが記載されている指定紙が掲載されており、プロのデザイナーがどのようにデザインを組み立てているかを知ることができる内容になっていて、丁寧な仕事ぶりがうかがえる一冊だった。

・読書感想
デザイン解体新書

今回紹介する「印刷に恋して」という本は、2002年刊行の本である。実際は「本とコンピュータ」という雑誌に連載されていた内容の単行本であり、印刷現場の様子は1997年から2001年の現場となるので。今とは大分様子が異なっているだろう。

余談だが、雑誌「本とコンピュータ」のグラフィックデザイナーは、「デザイン解体新書」の著者である工藤強勝さんだったので、妙なつながりを感じた。

印刷の仕組みが分かりやすいイラスト#

本の内容としては、長年編集者として仕事をしてきた著者が、飛躍的に進歩してきた印刷の現場の様子を、現場での体験を通して描いていく。登場する印刷技術としては、活版印刷・手動写植・コロタイプ・オフセット印刷・グラビア印刷・特殊印刷・電算写植などが出てくる。そこでの現場の職人さんたちにもスポットが当てられており、彼らの技術や仕事ぶりが生き生きと描かれている。

印刷技術を文章だけで説明するのは、難しい。そこで本書では、内澤旬子さんによるイラストが随所に挿入されており、写真よりも分かりやすく、細密な描写が機械の仕組みを理解する助けになっている。これは表紙を見てもらえれば一目で分かるだろう。

自分としては、画像処理が好きで勉強していたこともあり、オフセットの仕組みであったり、網点表現の説明などがイラストで分かりやすくて良かった。

在りし日の技術#

今の印刷現場はデジタル化が進み、この本で描かれていたような技術はほとんど見られなくなっているだろう。だからこそ、当時の職人たちの技術や仕事ぶりを知ることができるこの本は、貴重な記録となっている。

活版の時代は、鉛の活字を組み合わせて印刷を行う方法であった。活字棚から必要な文字を取り出して文字を組むなんて、今では考えられないと思った。大量の活字棚であるが、慣れると早く作業ができるようになるらしい。

この本で初めて知ったものとしては、「一寸ノ巾」式配列だ。これは文字の形から拾うことができる配列方式であり、基本見出し文字を五一種に整理し、これを覚えやすい語呂の順に並べたものである。今では手動で文字を拾うってことがないので、こんな配列方式が存在していたことを知ることができて面白かった。

・一寸ノ巾式配列について
http://ryougetsu.net/ab_issun.html

どうしても昔懐かしさや、アナログに良さを感じてしまうが、活版印刷のデメリットも知れた。すぐに分かるものとしては、生産性の低さだろう。重い鉛の版を扱うために、それを扱うための体力も必要であるし、場所の広さも求められる。また一人前の職人になるための字間も長く、修行が必要であることが分かった。

それに環境にも悪い。鉛などの金属を使うので、大量の廃液が発生してしまう。こうしたことを考えると、デジタルに置き換わるのは必然だったんだろうな。

デジタル時代のアナログ職人#

本書で印象的だったのが、「手の職人」から「目の職人」への変化である。デジタルへの移行で手作業の介入が少なくなる。その分、印刷物の色の仕上がりや品質を目で確認する重要性が増しているという点である。

現場でも、画像をきめ細かく調整していくレタッチの技について触れられていて、どんな色でも色分解のパーセントで答えられる職人さんの話が出てきた。

印刷所ごとの独自性を出すにはそれしか方法がない、ということになるのだろう。

まとめ#

在りし日の印刷現場の体験のレポ「印刷に恋して」の紹介でした。何よりイラストが分かりやすいので、印刷の知識がなくても読んでいて楽しめる一冊です。

こうした昔の印刷現場の体験をまとめた本は、今では貴重な記録となっているので、ぜひ手に取って読んでみてほしいです。

関連情報#

THE MAKING(10) 雑誌ができるまで#

「ザ・メイキング 雑誌ができるまで」のこの動画では、1998年に放送され、当時の雑誌がどのように作られていたかを知ることができます。ここでの印刷方式はオフセット印刷となっておりますが、動画で雑誌ができるまでの一連の流れを見ることができ、本書と併せて当時の印刷現場の様子を理解する助けになるでしょう。

トコトンやさしい印刷の本 (今日からモノ知りシリーズ)#

トコトンやさしい印刷の本も、イラストで印刷技術を分かりやすく解説してあり、印刷についての理解の助けになるでしょう。

大人の科学マガジン BESTSELECTION07 小さな活版印刷機#

去年出た大人の科学マガジンの小さな活版印刷機が気になります。小さいながらも、実際に印刷ができるとのことで、仕組みも理解できそうで余裕ができれば買ってみたいです。

活字が消えた日: コンピュータと印刷#

デジタル化によって、印刷所がどのように変わったかが描かれているらしいので、本書のその後の世界がどうなったのかが気になるので読んでみたいです。

「本」に恋して#

同じ著者とイラストレーターによる続編?がこちら。本の装丁から、紙やインキの開発、製本まで書かれているらしいので、この本も読んでみたいです。

Related Post
ヒルマ・アフ・クリントの絵画が表紙になっている書籍をまとめてみました
image

はじめに

画家が描いた絵画が、書籍の表紙デザインに使われることはよくあります。例えば、アンリ・マティスの「イカロス」は書籍の表紙に何冊か使われていますね。

https://togetter.com/li/2677752

最近では、ヒルマ・アフ・クリントの絵画が表紙になっている書籍をいくつか見かけるようになりました。そこで、ヒルマ・アフ・クリントの絵画が表紙になっている書籍をまとめてみます。

祭壇画、グループX No.1

3点から構成される「祭壇画」のNo.1にあたる作品になります。スペクトラムの色調の三角形、太陽を模した光り輝く金属箔が神秘的な作品になります。

Meta Data
公開日:2026-06-15
Tags:
#書籍紹介
#画家
「「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識 - 久保 友香」を読んだ感想
image

女の子たちがプリクラやアプリなどで、目を大きく加工した写真などを見たことがある人は多いかと思います。

本書では、この「盛り」を「一九九〇年代半ば以降のデジタルテクノロジーの発展により出現した「バーチャル空間」において、日本の女の子の間に広がった、ビジュアルコミュニケーションの行動。」と定義し、この「盛り」が生まれた背景を1990年代の渋谷から生まれたコミュニティから当事者へのインタビューを通して分析しています。

外国から日本の女の子たちに注目が集まる

ある日著者のもとに、フランス本社の化粧会社マーケティング部長の方が訪れる。その方は著者の「なぜ日本の女の子たちはそっくりな顔をしているように見えるか?」という記事を読み興味を持ったという。

Meta Data
公開日:2026-05-09
更新日:2026-09-16
Tags:
#書籍紹介
「観音像とは何か 平和モニュメントの近・現代 - 君島彩子」を読んだ感想
image

以前、宇都宮美術館の企画展のライシテからみるフランス美術のシンポジウムに行った際に、講演者の君島彩子先生の著書が気になっていたので、読んでみました。

また自分は出身が仙台なのですが、小学校の時に「仙台大観音」が校舎から見える位置にあったこともあり、なぜ巨大な観音像が誕生したのかや、観音像そのものについての興味もありました。

ふだん、仏教や歴史にあまり触れる機会がないため、個人的に久しぶりに関連書籍なども含めて知的好奇心が刺激される本でしたので紹介してみたいと思います。

Meta Data
公開日:2026-04-04
Tags:
#書籍紹介
#仏教
セルフマーケティングと継続力の鬼 「SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル 第2版」の感想
image

どなたかは忘れましたが、自分が技術ブログを作っていた時に、いろいろ他の人の技術ブログを見ていて、この本キッカケで技術ブログを作成したという人がいて、ずっと気になってた本をようやく読めたので感想を書きます。

どんな本か

書籍のタイトルにあるように、ソフトウェア開発者向けの本ではあるのですが、不動産投資などの資産形成の話や健康の話なども書かれています。

この本は、いいソフトウェア開発者になるための方法を教えてくれる本でもあり、キャリアのマネジメント、目標の達成、人生の楽しみ方について書かれています。ソフトウェアについての本なのに、人生の楽しみ方についても触れられているのは、著者のジョン・ソンメズさんが、33歳で早期引退(FIRE)したことにも影響しています。

Meta Data
公開日:2026-03-30
Tags:
#書籍紹介
UDデジタル教科書体開発物語「奇跡のフォント」を読んだので感想
image

この本の著者である高田裕美さんと UD デジタル教科書体については、以前 Youtube の SCIENCE CHANNEL(JST)での動画ニュースで紹介されていて知りました。

<Youtube videoId="1JcXa2u7kX0" />

ちょうどフォントについてや、書体デザイナーについても興味があるので、この本を読んでみました。

文字を読むことに苦労している子どもたちがいる

ロービジョン(弱視)やディスレクシア(発達性読み書き障害)といった症状があることを知っていますか?私は、この本で初めて知り、教科書が読めない子どもたちがいることを知りました。フォントによっては、文字が重なってみえたり、ぼやけて見えたり、フォントの装飾が刺さるように感じる人がいる事実に驚きました。

そのような経緯を知り、著者は UD デジタル教科書体の開発を始めます。UD デジタル教科書体は、開発から 8 年を経てリリースされることになるのですが、その様々な経緯などを本書の中盤から書かれていきます。

Meta Data
公開日:2026-01-21
Tags:
#書籍紹介
#フォント
「TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる」を読んだので紹介
image

Zettelkasten(ツェッテルカステン)について学びたかったので、TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになるを読んだ感想です。

<AmazonLink imageId="71taKZfhhWL.SY522" linkId="4o8lfyX" title="TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる" author="ズンク・アーレンス" />

読んだ経緯

以前、クリエイティブプログラマーという本を読んだ時に、Zettelkasten という手法を編み出したニクラス・ルーマンのことを知りました。

Amazon商品情報から引用

<AmazonLink imageId="81nmtchuZoL.SY522" linkId="450JeHq" title="クリエイティブプログラマー" author="Wouter Groeneveld" />

この本をきっかけに、ニクラス・ルーマンや Zettelkasten の手法について知りたいと思い、日本語で Zettelkasten について唯一紹介されている本書を読みました。

Meta Data
公開日:2025-08-02
Tags:
#書籍紹介
#メモ術
小説版 機動戦士ガンダムを再読した
image

2025 年は、機動戦士 Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)が放映された年でした。自分は途中からのリアルタイム視聴ができ、いろいろ不満がありながらも面白く一気見しました。

ちょうど 4 年前に「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」を劇場で観て、ガンダム熱が再熱してしまってファーストガンダムから V カンダム、F91 までの小説版を購入して読んだので、今回もまた GQuuuuuuX を見たきっかけで小説版を再読しようと思いました!

4 年前のガンダム熱が再熱したツィート...

<Twitter url="https://x.com/kameno_no3/status/1421415599486365697" />

小説版 機動戦士ガンダムについて

初代ガンダムを小説化したシリーズで、全 3 巻が発売されています。角川スニーカー文庫版を読みました。

<AmazonLink imageId="81GrNu1kooL.SY522" linkId="4o6HLIz" title="機動戦士ガンダム〈1〉 (角川文庫―スニーカー文庫)" author="富野 由悠季" />

小説版のガンダムは、アニメシリーズとは全然別物になっています。具体的には、ララァが第 1 巻の後半で登場するが、あっというまに退場したり、その後に小説オリジナルのニュータイプとして「クスコ・アル」なるキャラが登場したりします。

また、GQuuuuuuX の重要人物のシャリア・ブルはアニメ版では 1 話だけの登場でしたが、小説版では登場回数は多いです。

モビルスーツに関しても、第 1 巻でアムロが乗るガンダムが大破し、マグネットコーティングが施された G-3 ガンダムが登場します。シャアが乗るモビルスーツも、ジオングもゲルググも登場せずにシャア専用リック・ドムが登場します。

Meta Data
公開日:2025-07-27
Tags:
#書籍紹介
#小説
#ガンダム
フォントのふしぎを読んだので紹介
image

フォントのふしぎを読んだので紹介

フォントやタイポグラフィについて勉強したいと思い、フォント関連の本を読んでいきたいと思います。 手始めに読んだ「フォントのふしぎ」が良かったので紹介します。

<AmazonLink imageId="51Dtxr9LBSL" linkId="4nIcZFK" title="フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?" author="小林章" />

書籍と著者について

この書籍は 2011 年に出版された本です。著者は「小林章」さんで、ドイツ在住の欧文フォントの書体デザイナーです。他にも欧文書体などの本も書かれております。

海外に在住している書体デザイナーの著者が、街角で見つけたロゴや看板などの文字に関して写真を載せ、それをもとにフォントの話を展開していくという構成になっています。

カラーで写真も豊富に載っているので、見ていてとても楽しいです。

誰でも読みやすい、親しみやすい語り口

この本の魅力のひとつが、タイポグラフィの専門書でありながら、とても親しみやすい口調で書かれていることです。

たとえば、こんな一文があります。

「いっぽうで、1 とアイがまったく同じようなデザインのフォントもある(183 ページ)。別にどっちがイイとか悪いとかじゃないんで。」

こんなふうに、小難しい話をわかりやすく、時にはちょっと笑えるような軽やかさで解説してくれるので、まるで話のうまい先生の授業を聞いているような気分になります。

また、ヨーロッパで撮影された実際の看板や街中の文字を写したスナップ写真も豊富に掲載されていて、「フォントが使われている現場」の臨場感をリアルに感じられるのも大きな魅力です。そこにはきちんとフォント名とメーカー名も添えられているので、実用的な知識としても役立ちます。

Meta Data
公開日:2025-05-09
Tags:
#書籍紹介
#フォント
Info