【月報】2026/08 複雑なシンクロ
美術館
ゲームと美術 信長の野望 - 栃木県立美術館

自分が信長の野望をプレイしてないのと興味があまりないのが悪いのだけれども、かなり微妙な企画展だった。展示としてプレイ映像が多く、ゲーム開発の資料などが無かったので、美術館でやる意味を感じられなかった。インタラクティブな体験とあるが、最後にゲームがプレイできるだけであり、こちらもかなり微妙であった。
環境陶芸の地平 藤原郁三展 - 益子陶芸美術館

氏の作品は公共建築などの陶壁なので、実際に美術館での展示はできず、写真パネルでの展示となっているが、作られた作品の図面や、表現パターン「列、合、重、動、集、表出、面、相、立」についての解説があり、非常に刺激を受けた。こういったパターンの作品は好きなので参考にしてみたい。
陶壁について、氏が著者の下記の本があるが、栃木は陶壁王国らしいので、この本も読みたいし、実際の陶壁も見てみたいと思った。
本
森田真生関連
自らを独立研究者と称する森田真生の著作を3冊読んだ。もともと文系であった著者が、数学の魅力に惹かれ数学科に転向し、数学について探求していくのが趣がある。転向の過程では、1作目の「数学する身体」で紹介されている岡潔の「日本のこころ」に触れたことが大きな影響を与えている。
岡潔に影響を受けたこともあり、数学のことだけでなく、日本の情緒の部分や哲学といった部分が書かれている。数学においても、古代のギリシアから現代までの歴史を見ていきながら、私たちの思考の変遷を追っていく。数学が苦手な人でも、読みやすいのでおすすめできる。
数学する人生
森田真生さん編集による岡潔の選集。第一章は、晩年の最終講義を収録されており、それ以降はエッセイを選出している。森田真生関連の書籍を読んで、岡潔のことを知ったので、彼の文章を読めてよかった。数学の話は少なかったりしたり、話が飛んでいて読みづらいと感じる部分もあったが、岡潔の人柄や考え方を知ることができた。
xはたの(も)しい: 魚から無限に至る、数学再発見の旅
ストロガッツの著書は「インフィニティ・パワー」や「非線形ダイナミクスとカオス」などあり、力学系の難しい内容を扱っているが、本書は数学が苦手な人にも分かるように例えを交えながらわかりやすく数学の面白さについて書かれている。どの章も知っている内容ではあるが、ストロガッツがこんなにも面白く説明してくれているのを知れたのは収穫ではあった。
ちなみに原書の「The Joy of x」の表紙は、かなりカッコいい感じになっているが、どちらかというと日本語版の表紙の方が内容にあった表紙で英断だと感じました。向こうの人にとっては、この表紙でこの内容なのかと思ったのでは?
SYNC: なぜ自然はシンクロしたがるのか
同じくストロガッツの著書。先に「xはたの(も)しい」を読んでいたので、ストロガッツのことをおもしろサイエンスエッセイを書く人なのかと思っていたが、こちらはかなり内容が難しかった。著者は非線形力学を専門としており、本書は非線形科学と関わりがある「同期現象」について書かれている。
いつも思うことだが、誰でも読めるように数式を出さずに説明するのは、本当に読みやすくなっているのか疑問に思う。たとえで説明されても、頭に入らないんですよね。本書も数式がないのと、500ページくらいあって内容を理解するのが大変だった。
良いところとしては、ストロガッツが優秀な研究者であることと、彼の教授や教え子もまた有名な理論などの発見などをしている研究者であることを知れたことだ。「同期現象」「非線形科学」といったことに興味がある人は読んでみることをおすすめする。
複雑性とパラドックス: なぜ世界は予測できないのか?
こちらの本も複雑系、非線形について書かれた本である。最初に「驚き」といったものが、どのような認知のもとで起こるのかを論じる。驚きという言葉は期待と現実との差を表すという。つまり驚きとは失敗に終わった予測の産物なのである。そのため、驚きの原因を考えようとすれば、どのように予測を行っているのかに目を向けなくてはならなくなる。
事例をもとに、複雑性やパラドックスに着目し「驚きの科学」について考察していく。1996年 に出版され古い本ではあるが、複雑系の読み物のなかでも面白く読めた1冊でした。
複雑系: 図解雑学 絵と文章でわかりやすい!
こちらは複雑系についての入門書。事例として、フラクタル・カオス・ロジスティクス写像・セルオートマトン・バーコレーションなどの紹介を図を用いて分かりやすく紹介しています。
この本でフラクタル次元について理解できました。フラクタル次元の定義としては「ある図形全体が1/aに縮小したa^d個によって構成されているとき、この図形の次元をdと定義する」となっていて、フラクタルでは次元が整数ではない。
複雑系について知りたい人の入門として、最初に手に取ってみるのがいいでしょう。
フラクタル科学入門: 世界を見る目が変わる新しい発想
これまで読んだフラクタルや複雑系の本は理系の研究者が書かれた本であったが、本書は構成学などの美術系の研究者が書かれたフラクタルについての本。絵的に美しいコンピュータで描かれたフラクタルが掲載されていて読んでいて楽しめる1冊。
この本の出版は1990年で、当時のコンピュータによるCGのレンダリングは、BASICで4、5日の計算時間がかかっていたらしいとの記述は、現代の高速なコンピュータを考えると驚いた。そんなにレンダリングに時間がかかっていたなんて。
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義
先月読んだクック・トゥ・ザ・フューチャーの参考文献に載っていたので読みました。
海外では食×テクノロジーについての研究やイベントが盛んに行われているが、日本では進んでいないことに危機感を抱いている著者たちが、食×テクノロジーの現状や、今後の展望について書かれている。フードテックが起こってきた背景と注目される個別トレンドの解説を通して、フードテックのトレンドを理解することを目的としている。
2020年のコロナ禍の時に出された本なので、Withコロナ・アフターコロナの時代における食体験が多く書かれていた。この本が出されて6年後に読んでみたわけだが、特に変化があるとは感じないかな。自分があまり食に興味がないので見えてないだけかもだけれども…
日本食産業もフードテックに取り組み始めていると本書にあるので、今後は食分野について注目していこうと思った1冊でした。
小説の精神
「存在の耐えられない軽さ」の著者として知られるミラン・クンデラの小説についての手法やインタビュー、講義などが収録されている。ミラン・クンデラ自身、意識していないが、7つの章立てで小説を書くとあるが、本書も7つの章立てで構成されている。
カフカやブロッホの著作についての分析も行われており、クンデラの文学的背景や影響を理解する手がかりとなる。自分はクンデラの作品を読んだことがなかったが、本書の小説論を読んで、彼の作品を読んでみたいと思った。
タイポグラフィ・ブギー・バック: ぼくらの書体クロニクル
多様なメディア(文庫本・雑誌・マンガ・CD・テレビ)の著者が体験した書体の移り変わりについてのエッセイ。写植書体からデジタルフォントへの移行による、作品の感じ方の変化を著者の実感として描いている。タイトル通り、古いけど新しい書体「ブギー・バックな書体」だ。
どうしても昔の方が良かったという描かれ方になっており、いまいち読んでいてハマれない感は否めなかった。だが、普段本を読んでいて書体を気にすることはなかったし、復刊となった際の今は使えない写植書体について考えさせられた。題材がマンガや雑誌などで、興味深く読むことができ、一般読者にも書体の魅力が伝わる1冊になっているでしょう。
野口久光シネマ・グラフィックス
野口久光の映画ポスターが多数収録されている。氏の映画ポスターは表紙に載っている「大人は判ってくれない」が有名であるが、他にもたくさんの映画のポスターを手掛けていたのが知れた。映画ポスター以外には、学生時代の映画ノートには、鑑賞した作品のタイトル、スタッフ、キャストに関する詳細な記述がされており、また特徴的なレタリングも残されており、氏の映画に対する熱量が感じられる。
非Aの世界
「非Aの世界」というタイトルが最高にいい。非Aとは非アリストテレス主義である。非とあるので、通常の論理学(アリストテレスの三段論法など)とは異なり、超越した思考や哲学を持っている主義者が主人公たちなのである。
小説内では非アリストテレス主義についての説明がないし、ストーリーはどんどん場面を変えて進んでいく。なにしろ主人公はまちがった記憶を植えつけられていたところから始まるのだ。
久しぶりにSFを読んだが、とても楽しく読むことができた。
一般意味論などにもずっと興味があるので「思考と行動における言語」を読んでみたいものだ。
映画
エヴァの匂い
「男も女も全裸だったが、羞恥心はなかった」という冒頭のナレーションから始まる本作。
ジャンヌ・モロー演じるエヴァとスタンリー・ベイカー演じるタイヴィアンの関係は垂直方向であり、同じ位置に立てるのはラルジャン(お金)の関係のみである。
神の視点であるような上からのショットが印象的だ。最初にエヴァの部屋に行くが締め出されるシーンでは、この上空からのショットでしか出せないエヴァの悪女さ、タイヴィアンの哀れさが表現されている。
エヴァの服装の白黒の対比。最上階にいる白い服装のエヴァは、文字どおり天使みたいだが、その下の荒れた土地での黒い服装のエヴァ。ところどころ差し込まれる高い塔は何を表しているのだろう。
タイヴィアンは元炭坑夫であったが、小説が映画化されて上流階級の人になった。だが、もともとこの小説は、彼の兄の遺稿であり、それを自分の作品であると偽り作家デビューしたのであり、彼には文章を書く才能はない。誰にも云えない自分の姿をエヴァだけに打ち明ける。その後のエヴァの台詞、表情が凄まじい。「亡くなっったんでしょ?なら良いじゃない」。彼女は、自分の一番好きな「ラルジャン(お金)」を得るための行動に後悔しない。そんな徹底した態度に、哀れな男であるタイヴィアンは惹かれてしまったのだろう。
エヴァと出会った2年後である、映画の冒頭のバーで、タイヴィアンはヴェネチアでガイドしながら暮らす”作家”になっていて、金払いもよさそうだ。エヴァと同じ位置に立つために、文章の才能がなかったが作家となれたのだろう。そのことは微笑ましいが、まだ2年前の出来事を忘れられないし、元婚約者と友情を無くし、振り向くこともない女に入れ込む男の姿は哀れである。
「エデンの園の東方で、炎の剣を手にした天使たちは、“生命の樹”を守り抜いた」
音楽
mekakushe - スケルトン・プランクトン
mekakusheの新曲がよかった。mekakusheの楽曲ではアレンジャーが良いんですよね。ノイズ感が好きなんです。
MVもノイズやずれなどのアナログ感が良いなと思ったのですが、全フレーム紙に印刷して動かしているとのことで、発想がすごく良いなと思いました。本当のアナログだったのかという感じ。
Mitch Murder - Emerge
今月はじめて知ったMitch Murderというアーティストの新曲。いわゆるVaporwaveに位置するアーティストなのでしょうか?MVのCTAスキャンエフェクトのような表現が好きです。












